今日の日を彼はどれだけ楽しみにしてたか。
たしか2年半くらい前、彼がまだ中学2年生だったと思う。
一緒のレースを走ったことがあった(僕は覚えてないが)
彼の地元、広島中央森林公園のレースだ。
レース中盤、有力な選手が2名ほどで20秒くらい先行していたと思う。
この逃げは決まると判断した私は単独でアタックをしブリッジを試みる。
そしてあっという間に彼の視界から消えた(らしい)
それが彼の私への第一印象。
そのアタックで前に追いついたが確か決定的な逃げにはならなかったと思う。
レース後、彼は師匠にそのことを興奮気味に伝えた。
「僕も白石さんみたいなアタックがしたい」
そのレースから半年後のGW
中学3年生になった彼は師匠とともに一緒に練習に来た。
そしてガッツある走りをし、ボロ雑巾のようになった。
あれから何回か一緒のレースを走った。
何度も彼はアタックをし積極的なレースをした。
結果が出なくても決して消極的になったりはしなかった。
そんな彼から今年の2月くらいに連絡があった。
「選抜のオープニングレースを楽しみにしてます」
彼の実力からすれば、オープニングレースではなく、
選抜大会の先頭集団で暴れまわっててもおかしくないのだが、
彼は積極的なレースをするあまり、県大会でまさかの選考落ちをし、
オープニングレースに出ることになったのだ。
オープニングレースとは、選抜大会に出られない高校生のために、
距離は短いが先導バイクや審判車両が随行する本格的なレース。
それに一般人も参加できるのだ。
彼は私が出ることを聞いて、連絡してきたのだ。
普段はこの時期は全くといいほど練習しておらず、
とりあえず走るだけという状況だったのだが、
彼からのそんな連絡を聞いて、無様な走りはできない。
付け焼刃かもしれないが自分の出来る限りで練習をした。
そしてそれなりに調子を上げ大会に乗りこんだ。
結果は、彼の実力をまじまじと見せつけられることになった。
ガチガチにマークされてても、力で引きちぎって、単独で逃げ切って優勝。
そんな彼はレース後にこう言った。
「今の時期の白石さんは白石さんじゃない」
確かにそうかもしれないが、私は自分の出来る限りでこの場に臨んだのだ。
時期なんて関係ない。
そしてこうとも言った。
「もう白石さんと一緒のレースを走れることなんておそらく無いから楽しみにしてました」
「JCFの合宿もあって一緒に練習もできるかわからないので…」
彼は本当は選抜大会に出たかったはずだ。
そして結果を出せた可能性が非常に高い選手だ。
負けず嫌いな彼はライバルたちが走るレースを見るだけなんて悔しかったに違いない。
それでも彼は気持ちを切り替え、朝、挨拶に来て「逃げて勝ち行きます」と宣言した。
その言葉通り、ガチガチにマークされる中で、集団を引きちぎって独走で逃げ切った。
タイミングとかではなく、力で完全にねじ伏せた。
私はただ見送るしかなかった。
大町健斗
これからどこまで行くだろうか?
すでに私の知らない世界に足を踏み入れている。
それでも彼はこう言う。
「まだまだです。もっと強くならないと」
彼にとって敵わない憧れだった私は、もはや敵わない相手ではない。
どんな手を使ってでも彼だけには負けまいと臨んだのだ。
憧れでいてくれるのは嬉しいことだが、相手にはなれないかもしれない。
と思ったりしたが、私はそんな弱気ではなかったはずだ。
今日は彼にたくさん教えてもらった。
一緒にレースを走ることはないかもしれない。
一緒に練習をすることもないかもしれない。
それでも私も彼と一緒に走ることを楽しみに準備をしていないといけない。
走れなくても、結果を出していかなければいけない。
彼も結果を出していくのだろうから。
今日の日を忘れないでおこう。
2015年3月22日 白石真悟
各カテゴリーの優勝者です。
私も一般クラスで優勝しましたが、
高校生の部、中学生の部には負けました。
16歳
14歳
34歳
二人の年齢を足しても私には勝てません(笑)